切らずに治療できる
「選択的動注併用放射線療法」は
“希望の灯”
口腔は、体の中で占める割合はわずかですが、話す、食べる、味わうなど、生きる上で非常に重要な機能を持っています。口腔癌は、年間約6,000人が罹患し、その内約3,000人が死亡するとされています。中でも、舌癌は口腔癌の中で最も多く、その半数を占めており、近年は発症者、死亡者共に年々増加傾向にあり、今後もさらに増えることが予想されます。
また、他の口腔癌に比べて若い年代での発症が多くみられ、20代~40代でも罹患するのが特徴です。
進行性の舌癌の場合、現在は手術による舌の亜全摘、または、全摘出が標準治療となっていますが、治療後の舌の機能障害が大きな問題となっています。治療後も長い人生を送る若い世代での発症が多いことを考えると、舌を切らずに治療できる「選択的動注併用放射線療法」は、患者様の人生に“希望の灯”をともすものと言えます。
OVERVIEW
「選択的動注併用放射線療法」
について
通常の抗がん剤治療は、経口あるいは静脈から投与する方法が一般的ですが、「動注療法」とは、その名の通り、癌を栄養する動脈にカテーテルを通して、抗がん剤を直接投与します。抗がん剤の濃度を高くできるため、それだけ治療効果が高まります。また、抗がん剤の総量を減らすことが可能になるため、全身への副作用が軽減されるという利点もあります。
「選択的動注併用放射線療法」とは、治療を目的とする癌につながる動脈を選択し、そこにカテーテルを通して抗がん剤を直接投与しながら、併せて放射線(陽子線)治療も行う治療法のことです。
頭頚部癌への動注療法は、1950年に初めて行われましたが、長い間カテーテル先端の位置を色素で確認する方法が主流で、その治療効果は限定的でした。
この治療法が再び注目を集めるようになったのは、1980年代後半に目的動脈に対し、X線透視下でカテーテルを挿入する方法が確立されたからです。
その方法には2つあり、1つは太ももの大腿動脈を経て目的動脈にカテーテルを挿入する方法で、現在も多くの施設で肝癌の治療に用いられています。
この方法は、複数の動脈に抗がん剤投与が可能ですが、脳に流れる太い血管を通るため、カテーテル操作の影響で脳梗塞が2~4%程度起こることが指摘されています。
頭頚部の動脈の種類
ECAS(シース)とマイクロカテーテル
マイクロカテーテル先端は手元操作で動かせるので、
目的動脈を確実に選択できる
そしてもう1つは、頭部の浅側頭動脈からカテーテルを挿入する方法。この方法なら脳に流れる血管に挿入されないため、脳梗塞のリスクは非常に少なくなります。進行性の舌癌に対する動注療法に30年以上前から取り組み、その開発と技法をリードしてきた不破信和医師は、化学メーカーが開発した外頸部動脈に長期に渡って留置可能なECAS(External Carotid Arterial Sheath=以下、シース) と、シースから挿入し目的動脈を選択するためのマイクロカテーテルを用いて、高い治療効果をあげています。
シースとは「鞘(さや)」という意味で、浅側頭動脈にシースを挿入し、先端を顎動脈と顔面動脈の間に留置します。そして、癌の部位に合わせた目的動脈を選択し、シースの頭の部分からマイクロカテーテルを挿入し(進行性舌癌の場合は、舌動脈と顔面動脈に挿入)、濃度の高い抗がん剤を癌に直接投与していきます。治療回数は腫瘍のサイズや効果によって決定し、シースは1カ月以上留置することになります。その間に、放射線(陽子線)治療も並行して行い、舌を切除することなく、機能障害も残さない治療が可能です。
浅側頭動脈から挿入し長期間留置可能なシースとマイクロカテーテルの開発、そして、臨床での応用は世界初の取り組みであり、これまで多くの口腔癌患者様の治療に大きな効果をもたらしてきました。また、マイクロカテーテルの改善にも取り組み、最新のものは目的動脈への確実な挿入を実現しています。
浅側頭動脈から挿入されたシースと
マイクロカテーテル(イメージ)
STUDY
放射線の種類
陽子線治療とは
陽子線治療は、放射線療法の一つです。X線やガンマ線といった光子線を照射する従来の放射線治療とは異なり、水素の原子核(陽子)を加速してエネルギーを高めてできる陽子線を照射し治療を行います。
通常の放射線治療で用いられるX線は、体の表面近くでいちばん強い効果があり、体の奥へ入るにしたがって効果が弱くなり、病巣を超えて体を突き抜けてしまいます。そのため、病巣の奥にある正常な組織や臓器を傷つけることが避けられませんでした。
しかし、陽子線は、「設定した深さに到達したときに最大のエネルギーを放出して停止する」という特性を持っています。そのため病巣のある深さに合わせて陽子線の照射を設定すれば、その病巣にあたった時点で最大の効果を発揮して停止し、腫瘍をピンポイントに治療することが可能になりました。
陽子線治療のメリット
治療のための入院は不要
1日1回の治療で照射時間は30分程度、照射中に痛みを感じることもありません。体への負担が少なく仕事を続けながら治療することも可能です。
広がる選択肢
陽子線治療は、がん病巣にピンポイントで高いエネルギーで照射できるため、他の正常な細胞へのダメージが小さく、放射線の影響を受けやすい器官の近くにある病巣へも照射可能。X線での治療が難しかったがんに対しても治療ができるようになりました。
CANCER PATIENT
INTERVIEW
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市民のためのがん治療の会のご紹介
がん患者さん個人にとって、最適ながん治療を考えようという団体です。臓器別・器官別の専門医とは異なり、全身のがんを横断的に診ている放射線治療医によるセカンドオピニオンは、患者さんにとって有益な情報です。「市民のためのがん治療の会」では、がんの状態やお住まいの地域などを考えて、全国の放射線治療の有志の先生方の中から適切な先生をご紹介しています。